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知的財産、活用できていますか?

商標権、特許権、意匠権などの知的財産。関心はあっても出願して権利を取得していない、活用できていない企業が多いのではないでしょうか?
特許行政年次報告書2018年版によると、中小企業が特許を出願した件数は約4万件。全体の出願件数は26万件なので約15.3%です。それ以外は、ほとんどすべてが大企業による申請となっており、まだまだ知的財産を活用できていない中小企業が多いことがわかります。就労者数・事業所数から言えば、中小企業が2割にも届かない状況というのは非常にもったいない話しです。この統計は、中小企業が本領を発揮できていないことを意味しています。

経営者が

「うちには知的財産なんて関係ない」

「知的財産で、何か売上が増えるわけじゃない」

などと思い込んでいたり、あるいは、

「どうにかしたいけど、どうしたら良いか分からない」

という状況なのかもしれません。

いずれにせよ、多くの企業にとって、自社の技術的な差別化や人材の育成と並んで、自社内で知的財産に対する理解を深めて具体的に活用できるか否かが、今後は死活的に重要なポイントとなるでしょう。中小企業でも、知的財産を上手に活用できなければ、将来的に生き残れないのです。きっかけはバラバラですが、一部の中小企業では、知的財産の重要性に気がつき、かつ、自社の製造や販売に経営資源として活かし始めています。大きな成果を上げている中小企業も現れ始めています。
知的財産と全く関わりを持たない事業者は存在しません。存在しているのは、程度の差はあれ、知的財産を事業活動の一部に組み入れて成果を上げている企業か、まだ気づいていない企業かだけなのです。
以下では、知的財産について簡単にご説明し、あわせて弁護士がすすめる中小企業の知的財産活用法もご紹介します。

1.知的財産の種類
知的財産には、いくつかの種類があります。大きく分けると「産業財産権」とその他(著作権など)に分類されます。

産業財産権は以下の4種類です。
 特許権
自然法則を利用した技術的な発明で、新規性があり高度なものに与えられる権利です。
 実用新案権
自然法則を利用した発明ですが、特許ほど高度なものではないものに認められます。
 商標権
企業名や商品名、ロゴなどの「マーク」に与えられる権利です。
 意匠権
特徴的なデザイン、色の組み合わせなどに認められる権利です。

産業財産権が認められるには「特許庁」に申請をして登録される必要があります。高度な技術や特徴的なロゴがあっても登録されない限り、知的財産という権利性は認められないのです。逆に、特許庁で登録してもらえれば、登録者には独占的な利用権が認められます。
別の個人や法人が同じ技術やデザイン、ロゴなどを利用できなくなりますし、権利者は自社の知的財産を他者に貸し出して利益を得ることなども可能となります。

2.知的財産の活用方法
次に、中小企業におすすめする知的財産活用方法をご紹介します。
2-1.商標を登録してブランド力を高める
まずは御社の「商標」を登録しましょう。商標とは、社名や商品名、サービス名やロゴなどの「マーク」に認められる権利です。
楽天やソフトバンク、アサヒビールなどはそれぞれ特徴的なロゴを使っていますが、こういった大企業はみな自社で商標を取得しています。
商標権を取得すると、その商標の利用は自社が独占できます。他者に勝手に商標を使われた場合には、利用の差し止め請求や損害賠償請求が可能ですし、相手が悪質な場合には刑事罰が与えられる可能性もあります。もっとも、このような防御的な意味よりも、中小企業の場合は、次の意味の方が大きいかもしれません。

それは「ブランド化」です。商品のブランディング(差別化・唯一化・高級化)の方法は多様です。その中で商標登録のメリットは、商品実態は変わらないのに低コストでブランディングに寄与できることです。
地元の特産品などであっても、ロゴマークや商品名を登録して自社製品に利用すれば世間での認知を高められやすくなります。ブランド力がアップすれば信用がついて、他の商品より高い価格でも売れるようになります。
北海道の協同組合が「北海道味噌」などの地域団体商標を取得して、地域ブランドを確立したケースなどもあります。商品イメージをクリアにし、ユーザーへの訴求力をアップさせることは、ブランド化への第一歩です。

自信のある商品やサービス、あるいはすでに人気の出ている商品やサービスがあるなら、ぜひ商標登録を検討してみてください。ちなみに、商標登録の「ご利益」は上述に留まりません。これは、また別の機会に述べさせていただきます。

2-2.他社が類似商標を利用することも阻止できる
商標を登録すると、他社は「まったく同じ商標」だけではなく「類似の商標」も利用できなくなります。類似商標が使われると紛らわしく、消費者が適切に判断できなくなるからです。

ですので、商標登録さえすれば、他社に自社ブランドを真似されて利益を奪われるおそれが大きく低下します。これは、新製品でこそ検討すべきだと思います。力を入れている商品であれば、商標登録も含めて商品開発・販売活動であると捉えましょう。

2-3.特許権を取得して技術を守る
メーカーなどで日々製品や技術開発をされているなら、ぜひ特許権を取得しましょう。特許権を取得すれば、他社は同じ技術を利用できなくなります。その技術が必要なら御社からライセンスを受けなければならないので、御社にはライセンス収入も入ってきます。

もしも特許権を取得しなければ、他社が先に特許申請をして権利取得されるかも知れません。そうなったら御社の方が先に発明していても技術を使えなくなりますし、利用するには特許権者にライセンス料を払わねばなりません。

御社の発明や技術を守るには特許権の取得が有効です。もっと正確に言えば、本当に大切なことは特許をとらず、秘中の秘として絶対に漏れないようにすべきです。そうではない技術等で、特許を取得することに事業継続上の利益を見込めるものについて、特許を取得しましょう(その判断が難しいのですが。)。
大切なことは、技術者だけが特許について悩んだり、検討したりするのではないということです。営業(販売する人)と経営(社長など)も巻き込んで、販売するときに説明しやすい形を見据えて、特許の形を模索しましょう。中小企業で知財活用が上手く行っている会社は、技術者だけが特許について考えているのではなく、全社的に考えているのです。

2-4.「容器」やホームページにも意匠権が認められる
意匠権は、商標権や特許権に比べるとわかりにくい権利です。いったいどういうものに意匠権が認められているのか、わからない方もおられるでしょう。
意匠権は以下のようなものの「デザイン」について取得できます。
 家具
照明器具やキッチン、浴槽やテーブル、椅子など
 衣類
ジャケットやスカートなどの衣類、かばんや靴、マフラーやアクセサリー、メガネなど
 機械類
スマホ、パソコン、車、自転車、時計、農機具など
 部品
ねじやバルブなど
 容器
ペットボトルや包装用の容器、保存用の容器、スマホケース、シャンプーやリンスの容器、化粧品の容器など
 ホームページ
法改正により、ホームページのデザインにも意匠権が及ぶようになります。

最近では意匠権が及ぶ範囲が広められており権利性が強まっているので、御社でも意匠権の取得を検討してみてください。仮に、検討した上で何も無かったのなら、現状仕方ないことです。その場合はむしろ、今後の権利化を意識した開発・経営の契機とすべきです。

2-5.ライセンスによって利益を得る
商標権や特許権等の知的財産が登録された場合、他者が利用するには権利者からライセンスを受ける必要があります。つまり御社が先に知的財産の登録を終えれば、他者にライセンスして利益を得ることが可能となります。

商標も特許も意匠もライセンスできます。ライセンス料が売上げの一角を占める事業者も存在します。御社も、そのような事業形態が可能か検討し、将来的には少しでも可能性を大きくしていく施策をとるべきです。

3.知的財産は「先願主義」
特許権や商標権などの知的財産権については「先願主義」が採用されており、先に出願した方に優先的に権利が認められます。
権利を取得したいなら早めに出願する必要があるということです。
特許出願の工夫「分割出願」
特許権を出願するとき、ライバルに先を越されないよう工夫する方法があるのでお教えします。それは「分割出願」です。
分割出願とは関連する発明を複数回に分けて特許出願することです。以前に特許権を取得している場合、その後に関連する特許申請をすると、以前の発明の出願日を新発明の出願日とみなしてもらえるケースがあります。
この方法を利用すると、後から特許出願する発明でもライバルより優先的に特許権を取得できる可能性があります。

4.注意したい著作権について
著作権は、ざっくり言うと芸術的な方法で思想や感情を表現した場合に認められる権利です。上記4つの産業財産権とは異なり、登録制度がありません。絵を描いた瞬間や写真撮影した瞬間など、著作物を生み出した瞬間に権利が発生します。

中小企業の場合には、カメラマン、デザイナーやイラストレーターなどに外注する際に著作権への注意が必要です。デザインやイラストなどには創作者(著作者)に著作権が認められるからです。納品を受ける際に著作権の譲渡を受けておかないと、将来著作者から著作権を主張されて、取り戻しを要求されたり利用料金を請求されたりする可能性があります。
このパターンのトラブルは、最近頻発しています。クリエーターや製作会社の権利者意識が高まっている一方で、所有権と著作権をごっちゃにしたまま扱っている発注者が少なくないからです。
平凡ですが、双方のために必ず契約書を作成しましょう。そして、著作権については発注者である会社へ譲渡することを約束しておきましょう。逆に、著作権まで譲渡するなら、製作会社側は正当な対価を要求するべきです。

また、自社社員にロゴデザインなどをさせた場合でも、自社社員にも著作権が発生します。「自社従業員だから大丈夫」などということはありません。必ず「著作権は会社に譲渡する」と明確にしておきましょう。そのような社内ルールを共有しておかないと、将来、商標等を取得したときに現従業員や元従業員から著作権を主張されてトラブルになる可能性があります。

以上、非常に簡単ではありますが、知的財産にはさまざまな種類のものがあり、活用方法もケースによって異なることがご理解いただけたと思います。メーカーやデザイン会社はもちろんですが、営業会社や小売事業者などでも、知的財産権は大いに関係しているのです。
知的財産権は、自社が今後どこまで業態を拡大させたいのか、人材のレベルを上げたいのかに直結したテーマと言えます。パワハラやサービス残業を減らすというような体験しやすい問題とは異なり、知的財産は正面から意識して取り組まなければ見えてこないテーマだからです(故に徐々に大きな差を生むわけですが。)。
当事務所では、知的財産のトラブル解決や紛争予防はもちろん、特に、知的財産権の活用をサポートすること(知財経営の活性化)に注力しています。各事業者の予算、事業段階、将来展望等に応じて、最適と考えられるアドバイスを継続的に行うスタイルを得意としています。

うちの会社はどういった風に活用できるのかな?といった形として見えていないようなざっくりとした初めの段階のご相談や従業員の知的財産知識の底上げをするセミナーなども承っておりますのでお気軽にご相談ください。

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